北海道銘菓(トットリ)と北海道名産(コージ)が連れ去られ、ミヤギは特戦部隊の元に乗り込むことも出来ず、ひとり途方に暮れていた。 絶対にうまくいくと思った擬態だったのにこんなことになるとは。 何かいい案はないかと頭をしぼるが、元々深く考えるのが苦手な性質のミヤギである。脳は中々活発には働いてくれなかった。 「ふぅ・・・トットリとコージはどげしとるかなァ〜・・・んどもオラひとりじゃどーしようもねえしなァ・・・」 仕方なくとぼとぼと行くあてもなく歩いていると、木陰から聞き覚えのある声がかかった。 「くッくッくッ・・・お困りのようどすな・・・」 「!」 現れたのはアラシヤマ。木に背をもたせて余裕の笑みを浮べている。 「あんさんらにはハメられましたけど・・・条件しだいじゃ力になってもよろしおすえ!」 ミヤギはその木のうろで編み物をしているコモロやら木に掘り込まれた妄想の産物やらアラシヤマの存在それ自体やらすべてが見えぬかのごとく背を向けた。 「ハ〜ア・・・ひとりぼっちだべ」 「待てコラいなかっぺ」 「でっ!」 その背中に跳び蹴りをくらい、ミヤギは攻撃をしかけたを振り返った。 「!無事だったんか!」 「無事も無事。この通りピンピンしてる。それよりなんだ、何で無視する」 「何を?」 「何を?じゃないアラシヤマをだっ!ほらまたへこんじゃったよ泣いちゃったよ!」 「へっ?、おめアラシヤマって・・・」 「う!・・・いやなんだ、ほら・・・」 わたわたと言葉を捜すの頬が赤くなるのを見て、ミヤギはまさかと思いつつもそれを口にしようとした。 「も、もしかしておめーら・・・」 しかしそこで復活したアラシヤマが駆け寄り、の背を押した。 「、ちょっと向こう行っとってもらえまへんやろか?」 「なんで?」 「ええから、ほれ。ミヤギはんとはわてが話つけますさかい、な?」 半ば強引に連れ出され、戸惑いながらもはそれに従う。 そして先ほどアラシヤマがもたれていた木によっていくと、そのうろからの眼前にコモロが顔を出した。 「やぁくん。僕今編み物に凝ってるんだけど、君にも何かひとつ作ってあげるにょ〜。靴下の右と左どっちがいい?」 「・・・」 をその場から離すと、アラシヤマはミヤギを別の木の木陰にひぱった。 コモロをぶんぶん振り回すを見ながら、ミヤギはさきほどの言葉の続きを口にした。 「ほんとにまさかとは思うけどおめーら、付き合ったとかじゃ・・・ねーべな?」 「・・・」 「だっ、だべなぁ!まさかそんなことがあるわけが・・・」 「わかりますぅ?」 目を輝かせ、迫りながら言ったアラシヤマにミヤギはのけぞった。 アラシヤマはこほんと咳払いし、続ける。 「いやっ、やっぱりわかってまうんどすなぁわてらの"愛"は。そんなんどす、実は数日前に・・・まぁそれ以前から両想いではあったんどすけどぉ」 一見冷静に話しているようだがよく見ると口元が引きつっている。 にやりと笑ってしまいそうになるのを我慢しているらしい。 またその饒舌さから、自慢したい話したいという思いがありありと伝わってきた。 「何言ってるべアラシヤマ。おめ、また妄想が暴走してありもしないこと考えてるんか?」 むしろ哀れむように、ミヤギは首を振った。 アラシヤマにはシンタローについての前科もある。到底信じられる話ではない。 「何言うてはりますの!ほんまでっせ!ミヤギはんかてさっきのの聞きましたやろ、アラシヤマって」 「う・・・まぁ呼び名が昔に戻ってたのは驚いたけんども。それになんだべ、なんか性格も昔にもどってねーか?」 「そうでっしゃろ?それでも信じられへんのやったら、に直接聞けばええですわ」 「なら、聞いてくるべ」 「わあーっ!ちょ、ちょっと待っておくれやすっ!」 「なんだべ、やっぱり嘘だったんか」 「違います!けど、その前に言っておきたいことがあるんどすわ」 「言っておきたいこと?」 「さっき言った、条件の話どす」 「条件・・・ふん、別におめーの力さ借りなぐども、オラひとりで任務遂行するくらいわけねーっぺ」 「そうどすか?あんさんコタロー様の現状も把握できてないでっしゃろ。それに、さっきひとりじゃどうしようもないって言うてはりましたやろ」 「そ、それは・・・」 「そうでっしゃろ?」 いつもはフヌケであるのに、こういったときのアラシヤマには勝てない。 頭脳派であるだけあって、理詰めの口論は得意なのだろうが、ミヤギはといえばまったくその逆だ。 勝ち誇ったように言うのならまだしも、それが当然のように言うのだからまた分が悪い。 言葉で逃げ道を塞がれ、ミヤギのとる道はひとつしかなくなった。 「くっ・・・んで、条件ってのは?」 「そうどすな」 友達になれなどど言われたらどうしようか。 一体どんな条件が出てくるのかミヤギがひやひやしていると、アラシヤマは真顔で思いも寄らぬことを言った。 「"に近づきはらへんこと"」 「!」 「と、できれば言いたいんどすけど、それやったら任務に支障をきたしますさかい、"にちょっかい出さへんこと"で手を打ちますわ」 (それって、どういう意味だべ・・・?) 男がいるとわかっている女に手を出すやつだと思われているということなら、別に気にすることではない。 長年の付き合いではあるが、もともと互いに尊重する心を持っているわけではないのだ。 だがそうではないとしたら? 黙りこくったミヤギをアラシヤマが横目で見る。。 「あんさんがに好意を持っとるのは知っとりましたわ。まぁそないなこと言うたら団内のほとんどがライバルどすけどな。誰にも負ける気はしまへん。せやけど・・・あんさんには保険をかけさせてもらいます」 用心深く言ったアラシヤマに、しかしミヤギはろくに考える素振りも見せず首肯した。 「わかったべ。その条件でいい」 「・・・やけにあっさり言いまんな。ちゃんと条件わかっとるんどすか?」 「ああ、に手ぇださなきゃいいんだべ?おめー勘違いしてるっぺよ。オラがを好きだったのは昔のことだぁ」 ミヤギは笑って言うが、アラシヤマは笑わなかった。 「もし・・・わてを出し抜こういう考えならやめときなはれ」 コモロを相手に何か言うの声。 それさえも手にするように、誰にも渡さぬとばかりアラシヤマはミヤギの前に立つ。 「はわてのもんどす」 アラシヤマの全身から向けられる目に見えるような敵対心、独占欲。 それはあますところなく全て自分にぶつけられる。 その震えは怯えからか、武者震いか。 どうか後者であれ。 「わかったべ」 それでもさらに疑うような目でミヤギを見た後、アラシヤマは背を向けた。 「とりあえず現状報告しますさかい、一端家にきておくんなはれや」 あとはもうまっすぐにの元へ歩き出すアラシヤマ。その足取りには一変の迷いもない。 それを羨ましいと思うのは、まだへの想いを捨てきれていないからか。 しかしもしそうでも、最後のひとかけらすら今粉々に砕かれた。もう残ってはいないだろう。ミヤギはそう望んだ。 「・・・確かにオラはのこと・・・んどもそれは昔、ほかのために捨てたんだべ」 ほかのために捨てられる程度の想いなら、それは到底アラシヤマには敵わないだろう。 未練はある。だが自分で決めたのだ。そして条件にも同意した。 『はわてのもんどす』 攻撃的なまでの愛。 それを見せ付けられたのは、過去にも一度あった。 『を誰よりも好きなのは―――』 (ああ、オラはおめーらみてぇにはなれねぇんだろうなぁ) 何を懸けようとも相手を愛するほどの想い。 そんなものが、自分にもあったらよかったのにと思う。 しかし考えてもわからない。思考がついていかない。 これほどまでに自分の頭の鈍さを呪ったことはないというのに。 ミヤギの苦悩も知らず、アラシヤマは、殴られたらしく気絶しているコモロを足の下に木を覗き込むへと近づく。 「〜。話は終わりましたさかい、一端家に帰りまひょか〜」 ミヤギはそのの様子に気づき、アラシヤマを呼び止めようとした。 「ま、待つべアラスヤマ!」 >>next