2人は互いを大切に想うあまりその想いを打ち明けることを避けていた。
なんて遠回りをしたのだろう。これは夢かと疑ってしまうほどの幸せ。
だが感じているその体温が、これはまぎれもない現実なのだと教えてくれていた。
と、すでに2人の世界に入っていたアラシヤマとは、隣に立ったリキッドの存在に気がつかなかった。

「ガッテム・・・人が苦労してきてみれば」

「わっ」

あきれ果てたリキッドのうしろに笑うマーカーとGを見て、2人は慌てて離れた。
すっかりさっぱり彼らの存在を忘れていた。
アラシヤマは探るようにマーカーを見た。
顔は笑っているが、心でどう思っているかわかったものではない。

「お、お師匠はん、これはその・・・」

「よかったじゃないかアラシヤマ」

「え?」

「私がこちらで冷気を食い止めている間にずいぶんと良いご身分なことだ」

(あああ〜やっぱり怒ってなはるぅ)

マーカーと同様、Gもに笑いかける。
と言ってもGの笑い方は口の端を少し持ち上げるだけなので、見分けるのは至難の業だ。
しかしGの元で修行を積んだにはわかった。その笑いの意味も。

「・・・・・・」

「おめでとう的な視線は嬉しいんですがG先生、まさか・・・」

「こんなときのために、新作をたくさん作っておいた」

「うあーッやっぱりー!いや、そんなヒラヒラな服はいやーッ!」

いそいそとどこからか出してきた衣装ケースを探り出すG。
その中身はGお手製のヒラヒラフリフリの可愛いらしい服が満載である。
修行時代からことあるごとにGの趣味でそんな服を着させられていたにとっては軽くトラウマのひとつだ。

「第一なんで私の寸法知ってるんですか!」

「・・・ロッドがな」

「あの似非ハッカー人の個人情報を!G先生差し出さないで!私そんなピンクの服絶対着ない・・・色変えてもヤダー!」

マーカーの機嫌をとろうと必死のアラシヤマ。
ぎゃあぎゃあ騒いで逃げ回る。
さっきまでの雰囲気とは一変、騒がしいその場のノリに、傍観していたリキッドはしみじみと頷いた。

「弟子は師匠には勝てない。・・・俺もあの獅子舞にはどれだけこき使われたことか」

「ほぅ・・・獅子舞ってのはもちろん、雄々しく勇敢でステキって意味だよな」

「まさかぁ。それを言うなら自分勝手で金遣い荒い酒豪ってとこだろ」

うるさかった面々が一斉に口を閉じた。
リキッドはそれに気づかず話し続ける。

「あーでも隊長がアホ面で凍ってたのは爽快だったなー!そこはに感謝・・・ん?なんだ皆黙って」

誰もリキッドと目をあわそうとしない。
はしかたなく、皆を代表し大変残念そうにリキッドの背後を指差した。

「氷、そろそろ溶けるころだから」

「え」

まるで今度はリキッドが凍ってしまったかのように固まる。
それでもぎぎっと錆びついたような首を回せば、背後には獅子舞様、いや鬼神様が立っていた。

「よぅリッちゃんんんんん」

「・・・や、やだなたいちょ・・・ぢょうだんでふ・・・」

直後に響いた断末魔に、皆の心はひとつとなった。

(ご愁傷様・・・)

さらにそのままリキッドを森へ引きずっていくはハーレムの行くあの方向は、例の拷問広場ではなかったか。

「いや〜イっちゃったねぇリキッドちゃん」

ハーレムたちと入れ違いにひょっこりもどってきたロッドを見て、マーカーが露骨に嫌そうな顔をする。

「無事だったか」

「あれ?なんかニュアンス違くない?何その"チッ無事だったか"みたいな」

「が暴走したのはストレスの負荷が原因だったそうだが?どうせお前がまたいらんことを言ったんだろう」

「うわひでぇ!俺信用そんなにないわけ?別に何も言ってねーって。ただちょっと愛の告白を、な?」

言い様ににウィンクするロッド。
アラシヤマがそれにピクリと反応した。ロッドを挑戦的ににらみつけ、そのへの視線を遮るように間に割って入る。
アラシヤマはを背に堂々と言い放った。

「にちょっかいださんといてくれはります?」

「ふ、うまくいった途端強気か。なんだったらアラシヤマ、一緒にどうよ?俺男もいけるからさぁ」

「4年前もそうどしたけど、やっぱり下種な言い方しまんな。わてあんさんのこと好きになれそうにありまへんわ」

険悪なにらみ合い。しかし次の瞬間、ロッドは笑い出した。

「ふっ!あはははは!冗談だよ!冗談!」

「・・・どういうことどす?」

「見ててこっちが恥ずかしくなるくらいふたりが初心なもんだから、ちゃんにちょっかい出せばうまくいくかなーと」

「け、計算だったってことですか?」

「そういうこと!ま、こんな事態になるとは思わなかったけど、終わりよければすべてよしってジャパンのことわざにあるんだろ?さしずめ俺は愛のキューピッドってわけだ!」

「ぐぐ」

が息のつまったような声を出す。
決して否定はできないが、認めたくはないといった顔だ。

「つーことで、お礼もらうぜ」

「ひゃっ」

突然何とも言えない違和感を感じ、の喉から声が飛び出した。
すばやい足捌きで移動したロッドは、アラシヤマをかわしの背後へと回り込んだ。
そしてあろうことか後ろから抱きかかえるように、遠慮もなしにの胸を揉みまくったのである。

「おー見た目より結構胸あんなちゃん」

「な・・・な・・・」

不意打ちに声もでない。
助けようとしたアラシヤマも、思わず顔を赤くしてロッドの行為を注視してしまう。

「おいおい2人ともガキだなー。このくらいさらりとかわせねーと・・・」

「極楽鳥の舞!!」

「氷結界!!」

「あっつぅぅうううめたぁああああッッ!!」

炎と氷に同時に襲われたロッドは地面を転げ回った。
自業自得とばかり、マーカーもGも助けようとしない。
それどころか同僚に向かって情け容赦なく追い討ちをかけた。

「蛇炎龍!!」

「地爆波!!」

「んぎゃあああッッ」

体を燻らせ倒れたロッドに背を向け、一行は歩き出した。

「いやぁ、地球に優しいことしましたわ」

「同感だ。たまにはいいことを言うな馬鹿弟子」

「白でも嫌です絶対着ません」

「・・・・・・」

「お、お前ら・・・」

4人分の必殺技を受け、ロッドはガクリとうなだれた。
丁度そのころ拷問広場では、リキッドも同様にうなだれていた。三角木馬の上で。

「やっぱ拷問には三角木馬だよな?」

「ど、同意を求めないでください・・・」

「久しぶりの再開だってのにお前はぁ。これだったらあのの方がよっぽど見込みあんぜ!」

「うう・・・だったらを部下にでもすればいいじゃないですかぁ・・・」

「ん、それもありだな」

「え?ってわぁっ!」

三角木馬ごとハーレムに持ち上げられ、リキッドが悲鳴をあげる。
ハーレムは悲鳴などどこ吹く風で悠々と歩き出した。

「イタイイタイ隊長食い込むからヤメテェッ」

「安心しろ。家までちゃんと送り届けてやるよ。見つけやすいように家のまん前にな」

「そ、そんな屈辱的な帰宅はいやーッッ」

いやーッッ
いやーッ・・・
いやー・・・
密林に哀れな家政婦の叫びが木霊した。



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