の叫びが響き、周囲の緑が氷に覆われる。
それでもまだその勢いは衰えず、みるみるうちに白の境界線は勢力を広げていった。
そんな中、アラシヤマたちはマーカーの作り出した炎の壁により、凍結を免れていた。

「なんという冷気だ!炎を放出し続けなければ力負けしてしまう!G、なんだこれは!」

「・・・暴走している。おそらく何らかの理由で精神的に多大な負荷がかかり、それが容量をオーバーしたんだろう」

Gが普段になくすらすらという。それだけの緊急事態だということである。
番人としての責任感からか、真に迫った顔で聞いていたリキッドが言った。

「それってストレスってことか?やっぱりロッドが何かしたんだろ!あれ、そういえば、ロッドと隊長は・・・」

見回せば、炎の壁の外にアホ面で凍っているハーレムとロッドの姿があった。
ハーレムは遠くて救出が間に合わなかったのだろうが、ロッドは割りと近くにいる。

「マーカー、あんたロッド見捨てただろ」

「人聞きの悪いことを言うな。ロッドがのろかっただけだ」

「やめろ、今はそれどころじゃないだろう」

辛辣に言葉を交わす3人をよそに、アラシヤマはマーカーの作る炎の壁越しにを見た。

「・・・・・・」

いまや病的に青白く光るの肌。
冷気はその涙と同じようにとめどなく体から放出されている。

(いくらなんでもあんな勢いやったら自身も危ない・・・)

危ない?が死ぬのか。いなくなるのか。
まさかこのまま別れるなんて考えられない。
今日最後に交わした言葉はなんだった?

『・・・違うんどすか?』

自分は何をやっていた。こんなふうになるまで、気づけなかったとは。
自分のことばかり考えていて、に目がいっていなかったとは。

「G、を止める方法はないのか!」

その言葉に首を振るG。
マーカーが舌打ちをする。

「・・・ならばだ。熱を打ち込むほかないな」

アラシヤマはそれを理解した。
つまり、冷気に同等の熱をぶつけ相殺しようというのである。
だがそれに続けられた言葉には、耳を疑わずにはいられなかった。

「・・・え?」

「なんて馬鹿面をする、馬鹿弟子。内側にだ。この勢いでは内側からでなければ熱が通らない」

体の内側から。
腹に手刀を突き刺し、そこから熱を流し込む。
いや、そんなことをしたらそれこそ。

「し、死んでまうやないどすかっ!!」

「だからせめてもの情けとしてお前がやれ。言っておくが今他に方法はない」

「・・・できまへんっ」

「俺がやってもいいんだぞ。お前が俺のかわりに炎で壁を作っている間にな。この状況で動けるのは俺かお前だけだ。火壁を消せば、たちまち凍らされてしまうからな」

「そんな・・・」

そんなことができようか。
自分で?自分の手で?
できるわけがない。



好きなやつを殺すなんて。



自分とが、友達か、否か。
それをさりげなく会話に混ぜて聞いてみたのは、不安だったからだ。
子供のときから一緒だった自分は、男として見られているのか。
ではせめて友達として。もしそうだと認めてくれるならば脈はあるのではないかなどと。
なんという卑怯な考えだろう。

部下になってからのの敬語。どこかよそよそしい態度。
嫌われたのではとびくついていた。
自分以外の者と話すときのは、とても自然体だ。
その笑顔を、自分にも向けて欲しい。
それを思いながら、アラシヤマは今まで何も言わないでいた。
それは言っても良いものだろうか。部下の振る舞いまでも上司が決めることではない。
しかしこれは命令ではなく願いだ。部下ではない、自身への。

(あんさんには・・・わてがおりますのに・・・)

内に秘めた独占欲。嫉妬心。
それは醜いもの。しかし確かに存在し、ときにはその片鱗を除かせる。
"あなた"には"じぶん"がいる。
裏を返せば、"じぶん"以外を見ないでほしいと。

この言葉を、覚えているだろうか?

あのときと立場は変わったけれど、その気持ちは変わらずに。
ただ少しの認識の変化、そして想いの加速。だがそれを言う勇気は自分には無かった。
それでも、自分はいつでものそばにいた。
だから言える、だから無理などしなくていい。

数年前の士官学校、が女だとわかったときの複雑な気持ち。それは今まで経験したことがなかったものだった。
ああ、なんて鈍かったのだろう。
ずっと前からこんなにも自分の胸を締め付けていた想いの名がやっとわかったのに、と。
言いたい。だが言えなかった。
この想いに、これほどの恐怖がつきまとうとは。
自分は人生の半分も知っていなかったのだと知った。
の、ふと垣間見える女らしさを見るたびに言ってしまおうと思った。でも駄目だった。
もし失ったらと思うと恐ろしくて。壊してしまうのではないかと恐ろしくて。

伝えられずとも、守っていこう。
ただ、好きだから、幸せに。

それが。

「できるわけ・・・ないやないどすかッ・・・!」

「・・・ならば俺がやるぞ」

マーカーが不思議な沈黙のあと言った。しかし動こうとはしない。
炎をすかして見たリキッドが島の様子を見て叫ぶ。

「やばい!島が!お、俺が行くっ」

「待てっ」

飛び出そうとしたリキッドをGが押さえる。
炎を使えないリキッドでは、壁から出た途端氷づけだ。
それどころか、マーカーが作る炎の壁すら突破できないだろう。
ついにマーカーが言った。

「馬鹿弟子、かわれ」

(嫌やッ・・・何か方法があるはずどす・・・熱を体内に・・・)

そのとき、アラシヤマの脳裏にひらめきが走った。
ほけっと顔をあげたアラシヤマを、マーカーが見る。

「どうした。ついに本当に馬鹿になったか」

「ありましたわ・・・を殺さずにすむ方法が」

「何?」

マーカーの疑問には答えず、アラシヤマは壁を振り返り、マーカーに背を向けた。
目はだけを見つめている。

「お師匠はん。こっちはよろしゅう」

体から炎を立ち上らせ、アラシヤマは地を蹴った。



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