広場がにわかに騒がしくなる。 マーカーたち3人が何事かと櫓を見れば、そこにはど派手な服にガスマスクを装着したハーレム、ついでにリキッドがサンバに参加していた。 ロッドがそれに気づき泣き叫ぶ。 「あれは俺の勝負服ッ!D&Gだぜッッドルガバ!体臭つけんなよッッオヤジぃ!!」 「勝負服だとぉッ!?ギリギリだぞロッド!」 自重を促すマーカーに続き、2つの呆れ声が言った。 「ギリギリアウトですよ」 「イタリア人のセンスは理解できまへんな」 「なんだと!」 自分のセンスを馬鹿にされ、ロッドが声の主を探して勢いよく振り返る。 もちろんそこにいたのはアラシヤマとだ。 マーカー、G、ロッドは軽く目を見張った。 森の中でマーカーに燃やされたアラシヤマがぴんぴんしているのもそうだが、3人の目は主にその隣にいるに向けられていた。 「お師匠はん」 呼ばれ、マーカーははっとして先ほど必殺技をぶつけた弟子を見た。 「・・・久しぶりだなアラシヤマ」 (((なかったことにしようとしてやがるッッ!!!))) 、ロッド、Gは、マーカーのあまりの非情ぶりに鼻から流血したが、アラシヤマはそれをさらりと受け流した。 「へぇ」 どうやら師弟の間で密林の中でのことはなかったこととなったようだ。 マーカーはまったく自然な様子で話し続ける。 「隣にいるのはか。ずいぶんと成長したな。一瞬誰だかわからなかったぞ」 「おかげさまで」 「・・・」 「G先生、お久しぶりです」 「・・・む」 言葉少ななGをさえぎりロッドが喚いた。 「おいおい、とりあえず話はあとにしてこの縄解いてくれよッ!このままじゃ俺の勝負服が・・・」 「服ならさっき巨大鶏に攫われましたけど」 はハーレムとリキッドを攫い、すでに空のかなたに飛び去ったクボタを指す。 遠くからでもど派手な服の色がよく見える。 「お、俺の勝負服ぅううううっ」 「ハーレム様の心配はしないんですね。ところで・・・」 「お三方、何かお困りやないどすか〜」 アラシヤマとがにこりと笑う。 そう、ハーレムが連れ去られてしまっては、3人を助けてくれる者はいない。 それ自体は日常茶飯事だが、今はあの秘石眼を持つパプワがいるので、それは非常に困る。そもそもここにこうして縛られているのはパプワにやられたからだ。 つまり3人は、アラシヤマとに助けを求めるしかない。 だがそれをわかっているであろう2人は、にやにやと笑っているだけである。 「わてらもお師匠はんたちとゆぅっくりお話したいんどすけどぉ」 「やっぱり縛られたままじゃ難しいですよね」 助かりたければ自分の口で言えというのだ。 ぐっと言葉を詰まらせる3人の目の前、アラシヤマとはただただ笑っているだけだ。 「くぅぅムカつく!っても動けねぇのも事実だしな・・・マーカー、きっとお前の弟子さっきのこと怒ってんだよ、素直に謝れ!」 「さっきのこととはなんのことだ。G、お前の弟子だろう。説得しろ」 「・・・」 助けを求める役を押し付けられ、Gがむっつりと口を開く。 そのとき、パプワが大声で言った。 「生贄に火をつけろー!」 その声に答え丸太に走りよってくるナマモノの中にゾンビを見つけ、は、燃やされると知ってロッドたちがあげた悲鳴と同時に叫んだ。 「「「「わーッ!!!」」」」 アラシヤマの首を引っつかみ一目散に森へと逃げ込む。 丸太の下に火がつけられ、Gたちの足元を火がちろちろと舐めた。 本当にやばいとマーカーとロッドがGを促す。 炎使いのマーカーはともかく、ロッドは命の危機を感じ、なりふり構っていられない。 「G、早く言えッ!」 「あち、あっちぃいいいいいッ!Gまじで早ぅううううううッ!」 「!」 Gが自分を呼んでいるのは聞こえているが、は顔を上げようとしない。 丸太の周囲にはまだゾンビがいるのだ。 「、このままやったらお師匠はん以外はほんまに燃えてまうで」 「わかってますよッ!」 「顔上げなくてもええどすから、なんとか氷を張って凌ぎなはれ」 「うううう〜ッ・・・」 「ほれっ」 唸るの手をとり、アラシヤマがその手を目標に向けさせる。 重ねられた手に、はかっと頬が熱くなるのを感じた。 こんな状態では技をまともに出せそうもない。ただでさえ自分は不調なのだ。 「!・・・熱いぞ!」 Gなりのかなりあせった声音に、は思い切って見えない目標に冷気を向けた。 「ひょ、氷結界!!!」 3人と炎の間に板を作るイメージで氷を形成する。 は目を向けていなかったが、アラシヤマの吐息がすぐ近くで聞こえたので成功したのだとわかった。ロッドのわめき声も止んでいる。 しかしはアラシヤマのその吐息にさえもどきりと心臓を震わす自分に苛立った。 ゾンビごときでこんなにも弱さをさらけ出している自分にも。 「、ゾンビどもはもうおりまへんで」 すでに生贄に用はないらしい。 ナマモノたちも含め、その場にいたゾンビは皆櫓の方へと移動していた。 はそろそろと顔をあげた。申し訳なさと情けなさでいっぱいだ。 「馬鹿弟子、早く縄を解け」 マーカーがぞんざいに言う。 アラシヤマはやれやれと立ち上がった。 「まったくあのお人は・・・あれが人にものを頼む態度でっか」 「マーカーさん、怒ってますよね・・・」 「気にすることあらしまへん。あのお人ら、そう簡単に怪我なんかせぇへんし」 アラシヤマはすたすたと丸太に歩み寄り、3人に当初の計画を持ち出した。 「お師匠はん、縄を解くかわりにお願いがあるんどすけど」 「嫌だ」 その内容を聞きもせず瞬時に断るマーカー。 交換条件と言えど、アラシヤマはあえてお願いという言い方をしたのにもかかわらず、だ。 弟子をかわいがる気持ちは微塵もないらしい。 しかしアラシヤマも慣れたもので、慎重に柔らかく言い直す。 「コタロー様のことでおいでなはったんでっしゃろ?それで、わてらも協力・・・」 「確かにコタロー様のことで来たが目的はお前たちとは違う。うちの隊長はガンマ団を相手にしようとしている」 「ああ、予想通り」 アラシヤマのそばで一緒にそれを聞いていたは思わず言った。だがすぐにマーカーと目が合い慌てて口をつぐむ。 そのマーカーの言葉に首を振ったのはGだった。 「いや・・・隊長は考えを変えたようだ」 「何?」 いつの間にか戻ってきたハーレムの方を見ると、ハーレムはロタローと話をしているところだった。 その顔には笑顔が見られる。 「隊長にはもうコタロー様を捕まえる気はない・・・」 アラシヤマとは視線を交わした。 どうやら色々と事情が変わってきたようだ。 そのとき、先ほどからただひとり会話に参加していなかったロッドが口角をひくつかせた。 「なぁ・・・シリアスなとこ悪いんだけど、氷がもう・・・」 「え?」 途端、すでに薄く磨り減っていた氷が溶けきり、炎が復活した。 氷が解けて水がかかった分勢いは落ちているが、それでも熱いと叫ぶには申し分はない。 ギャーギャー喚く3人の縄を急いで解こうと、アラシヤマとが駆け寄る。 そうしながらは、視界の端に何かが青く光るのを見た。良く見ればそれはハーレムの手から発せられている。 しかもその光はこちらに向けられているではないか! 「うぇえええええっ!やばいやばいやばいっ!」 の声にアラシヤマもそれに気づいた。 「が、眼魔砲ーっ!?」 次の瞬間にはその閃光は目の前にまで迫っており、青い光がいっぱいに広がったとき、2人はすでに後方へと吹っ飛ばされていた。 眼魔砲によって火あぶりから無事解放された3人に、ハーレムが言う。 「帰っぞオメーら!」 「えッ・・・」 「あーッ!おじさんはそいつらの仲間なのッ」 「ほっとけロタロー!」 ハーレムが3人を助けたのを見て声を上げたロタローをパプワが制する。 ロタローはもどかしげにハーレムにむかって拳を握った。 「もうッ・・・パプワくんに免じて許してあげるけど、もー悪さしちゃダメだよ!」 「ギャハハハ!そりゃあ約束できねーな!大人だからまーだまーだ悪さはいっぱいするぜェ〜」 しかしハーレムはコタローを振り向き、ウィンクして付け足した。 「でもまあせいぜい、ガキにゃあたんねえ悪さにしとくぜ」 「・・・ってことはもう特戦部隊はコタロー様を捕まえる気はないわけですね。いってぇ頭打った」 「そうなりますなぁ・・・」 ばらばらになった丸太の後ろ、吹っ飛ばされひっくり返ったとアラシヤマは、去っていく特戦部隊を見送りながら言った。 お盆祭りももう終わりなようで、ゾンビはすでにその姿を消し、ナマモノたちも次第に引き上げていった。 アラシヤマが絡まった蔦などを掃いながら起き上がる。 も起き上がり、正位置の視界を取り戻したあとアラシヤマに言った。 「隊長、やはり飛行船だけでも。少なくとも役に立つものがあればパクりたいです」 「はっきり言いまんな」 「何言ってるんですか!この島に当分滞在の可能性だってあるんですよ!」 「・・・よろしおす。せやけど見つからないように、慎重にいきまっせ」 「それはもう」 自分たちの師匠に軽くでもゆすりをかけたわけである。 Gはまだいい方だろうが、マーカーのその報復は、考えただけで恐ろしい。 しかし実際には、可能な限り忍んで飛行船に近づいたふたりは、あっと間に見つかってしまったのだった。 >>next