密林を大股で闊歩する特戦部隊。
恐竜を追い払ってしまえばそうそう怖いものなどない。
ロッドがぼやいた。

「ったく、えれー目にあったぜ・・・ハーレム隊長、とっとと作戦終わらせてこんな島出ましょう!」

「ああ・・・コタローさえ手にいれりゃこっちのモンだ。シンタローの泡くった顔が楽しみだぜェ」

煙草を吹かし、先頭を行くハーレムが言った。
その余裕に満ちた声に釣られるように、ほかの者も軽口を叩き始める。

「リキッドちゃんに会うのもたぁ〜のしみ!俺ら見て漏らさなきゃいーがな!」

「ボーヤに失礼だぞ。オムツの替えぐらい持ってるだろ」

ロッドの言葉にくくっと笑って、珍しくマーカーが冗談でそれに乗る。
Gはその後ろでいつも通りの沈黙を守っていた。

「あー、早く仕事片付けて一杯やりてー」

すでに任務になんの心配も抱いていないロッドはすっかり寛ぎ、ハーレムよりも率先して叢に押し入った。
が、一行は思わず足を止めた。
叢の向こう、そこにいたのはアラシヤマ。
頭からコモロを生やし、木に寄りかかって体育座りをしている。

ゴキュ

ごきゅ

ゴキュ

ゴキュ

そのあまりにも哀れな姿に、ハーレムたちは現実逃避のため、それぞれ持っていた自国の酒を一口飲んだ。
ティラノサウルスすら打ち負かした元ガンマ団特戦部隊がドン引きだ。
その中でも一番言葉を失くしたのはマーカーである。

(・・・あれは私の弟子のアラシヤマ!)

この島に来ているとは知っていたが、まさか人面きのこに寄生されていようとは、あたりまえだが思いもよらなかった。
しかもなにやらどん底な顔をしてうずくまったまま動かない。
マーカーの脳裏に、幼きアラシヤマとの修行の日々が、うまいこと美しい部分だけ鮮やかに蘇った。

『こっちどすーお師匠はん!』

『負けまへんで師匠ッッ』

しかし実際は美しい思い出などはほんの僅かで、その大半はトラウマになるようなものばかりだったのだが。
マーカーとは反対に、コモロによって無理矢理思い出を引きずりだされたアラシヤマの脳内は放送規制。
まったく同じ時期を思い返しているのに、まったく違う情景が2人の思い出として駆け巡っていた。
そんな師弟を見て、ロッドとGが遠慮がちにつぶやく。

「なぁ・・・アレって確か・・・」

「・・・うむ、マーカーの・・・」

「!!」

マーカーはそれを言われる前に、もはやアレ扱いされた己の弟子にかつての戦いでも繰り出した必殺技を放った。

奥義・蛇炎流!!!

手加減をするつもりもないのか、鬼気迫る表情で、寄生絶好調のコモロごとアラシヤマを燃やし尽くす。
めらめらと燃えるアラシヤマを背に、気遣う様子もない。

「ふぅ・・・みんな危ないところだった。密林には何が潜んでいるかわからん。さぁ先を急がねば!」

そしてもはや振り向かず、しれっと皆の前に立った。
己の名誉のための証拠隠滅に、ハーレムたちは白目を向いた。
が、特に誰も何も言わず、アラシヤマのことはなかったことにして一行はその場をあとにした。





しばらくして、戻ってきたが見たのは、黒炭のアラシヤマ、ついでにコモロだった。

「た、隊長!?」

急いで駆け寄り助け起こす。
信じられないことだが、普通に意識はあるようだ。

「一体誰が・・・ってか大体わかりますけど、マーカーさんと何かあったんですか?まさか戦った・・・にしては軽傷だな」

「う、う・・・お師匠はんが・・・お師匠はんがッ・・・」

「証拠隠滅にゃ〜。いきなり燃やされたんだにゃ〜」

言いつつぼふっと炭を吐いたコモロを、は容赦なくアラシヤマから引っこ抜いた。

「つかあきらかに貴様のせいだろう。なんで隊長に寄生してんだどちくしょう」

辛辣な視線を向けられ、コモロは精々哀れっぽい声を出して言った。

「だって今日はお盆祭りだからみんな相手をしてくれなくて・・・寂しかったんだも〜ん」

「何がも〜んだ」

「許してほしいんだも〜ん。にゃ〜」

から目に見えてイラッとしたオーラが立ち上った。
どちらにせよ実質被害から言って同情の余地などないが、コモロに反省の色はまったくない。
は密林の奥に向かってコモロを思いっきり投げ飛ばし、何食わぬ顔でぱんぱんと手をはたいた。

「お盆祭り?」

は突っ伏したまま言ったアラシヤマの頭を膝の上に乗せ、火傷を冷気で癒しながら見てきたことを話した。

「ナマモノたちは、何やら櫓のようなものを作っていました。具体的に何をするのかまではわかりませんでしたが・・・」

「・・・そ、その前に・・・あのどすな、この体勢はちょっと・・・」

「はい?大丈夫ですよこれくらい。火傷を冷やすのなら、昔から何度もやってることじゃないですか」

「・・・いやそうやなくて・・・ええどす・・・」

「え?はい・・・あ、それでですね」

どうやら島のほとんどのナマモノたちが集まっているらしい。
皆手に手に松明を持って、何かを待ちわびているようだったという。
その中に、コタローの姿もあった。

「あのパプワとかいうちみっこもいましたが。それと、G先生たちもどうやらそこへ向かったようです」

その直前、ハーレムたちによって森にできた拷問広場のことはあえて言わなかった。むしろ触れたくない。
どうやらリキッドを歓迎するためのものらしいが、ご愁傷様と言うしかないだろう。
その後、ハーレムたちをつけているはずのアラシヤマに行き会わないのを不信に思い、急いで探しにもどってきたのだ。

(あれ?あともうひとつ・・・なんだっけ?思い出せない・・・)

マーカーとGが見つけた大きな門。
それも報告しようと思っていたのだが、は今、何故かそれをすっかり忘れてしまっていた。

「ほな、わてらもいきまひょ」

報告を聞き終わった途端すくっと立ち上がり、平然と歩き出したアラシヤマを、は驚いて追った。

「隊長、まだ火傷が・・・」

「このくらいの火傷、師匠に何度も燃やされて慣れとります。が冷やしてくれはったおかげでよくなりましたわ」

師匠に燃やされ慣れているとは悲しい話だが、アラシヤマのことだ。火傷のことで見誤ることはないだろう。
は慌てて、ずんずんと先へ進んでいくアラシヤマの先に立つ。

「こっちです」

先ほど櫓を見た広場へとアラシヤマを導いたは、その場の光景に愕然とした。
広場では、燃え尽きた櫓の横に、また新しい櫓が建て直され燃えていた。
だが、が口をあんぐりと開けたのはそのことではない。
問題はその周りでナマモノたちに混じり踊っているもの。

「ゾ、ゾンビどすか?」

信じられないと言うように言ったアラシヤマの後ろに、は飛び込んだ。

「き、きもぃいいいいっ」

「なんでゾンビがサンバ踊って・・・」

「隊長!ゾンビゾンビ言わないでっ!う、動かないでください動かないでくださいアレが見えるぅっ!」

実を言えばホラー系が大の苦手なである。
真っ昼間燃え盛る櫓の元であろうと怖いものは怖い。
の肌に鳥肌が立った。何も見えないようにアラシヤマに力の限りしがみつく。

「ぐぇっ!、首、そこは首どすえ〜っ!」

「すみません隊長でも怖ぇえええええっ」

アラシヤマの首を絞めながらぐるぐると回っていると、ぱっと視界に入ったのは櫓から少し離れた場所に立つ太い丸太。
というか櫓周辺はゾンビだらけでまともに見れないのでそこくらいしか見るところがない。
はたしてその丸太に縛り付けられていたのは、ハーレムを除く特戦部隊の3人だった。
周りを固めているのはエグチとナカムラである。

「うわっ!胸きゅんアニマルに捕まる元ガンマ団特戦部隊の図!」

「っいい加減に離しなはれぇ〜っ」

「きゃー!隊長が真っ青!」

「誰のせいやと思ってはりますんやっ」

「ゾンビのせいです」

やっとから開放されたアラシヤマは、咳き込みながらも丸太を見て嬉しそうに言った。

「おおッ!まさしくあれはお師匠はんッ!わての呪いの言葉が効いたんどすなっ!?」

「そ、そうですねー・・・」

「、どこ見てはりますのん?そっちは森でっせ」

「だって怖いんですよ!」

「ゾンビがでっか」

「そうですっ!悪いですかっ!」

顔を赤くしアラシヤマをにらみつける。
口調は敬語だが、昔と同じようなそのやりとりにアラシヤマは微笑んだ。
この島に来てから、のアラシヤマへのそっけなさが消えつつあった。

がむっとした顔で言った。

「そういう訳知り顔で笑うのやめてください」

「ゾンビが怖いなんて、やっぱりも女どすな」

「苦手なものに女男は関係ありませんっ」

それをはいはいと軽くいなし、アラシヤマは再び丸太の方を見た。
むくれているにくいっと手を動かして見せる。
丸太の後ろに回りこむぞ、という合図だ。

「ふふふ、師匠が捕まっとるとは・・・愉快どす」

「G先生なんか表情ひとつ変えてないし・・・つまらんっ」

丸太のうしろに移動し、マーカーたちを見て好き勝手に言うアラシヤマと。
師匠も師匠なら弟子も弟子でお互いに尊重する心は見受けられないのがやはり悲しい。

「これはチャンスどすな。師匠たちを助ければ、特戦部隊にうまいこと貸しが作れますさかい」

「・・・ハーレム様の姿が見えませんね」

「まぁそれも好都合どす。ん、胸きゅんアニマルが丸太を離れましたで!今どす!」

アラシヤマとは広場へと進み出た。


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