「ほな、作戦会議はじめまっせ」

「はい」

洞穴に、でかでかと掲げられた<コタロー様奪還大作戦>の文字。
アラシヤマはそれをばしっと叩いて話し始めた。

「まずは今の状況の整理どす」

・コタロー様は記憶喪失
・邪魔なのはリキッド、パプワ(ついでに犬)
・通信機器は使えない
・脱出経路なし

「・・・こう改めて見ると、最悪ですね今の状況」

「しかしこれをどうにかせんことにはわてらの立場が危ういんどすえ。あの親馬鹿親父のやり方はわかっとります」

団内の幹部クラスをばんばん送り込み、それで駄目なら自ら出向く。
団内の混乱などお構いなしに、仕事より息子をとる。
実際4年前など、ミヤギから始まり実力者をずらっと送り込んだため、団内の統率が崩れ大変な騒ぎになっていた。
その際、支部に残った数少ない実力者の中から頭角を現した者たちが、ガンマ団をなんとか支えていたという。
アラシヤマはその際もちろんパプワ島にいたのだし、はある国での潜入捜査の真っ只中だったので、その辺りは博多どん太や津軽ジョッカーに聞いた話なのだが。

おそらくこの島は以前と違いただの島ではない。
そのためまだ目立った動きもないが、シンタローが帰ってくるまでというタイムリミットがある限りマジックは手段を選ばないだろう。

「次の刺客が来るまでにコタロー様奪還せんとクビって可能性もありますな」

「それは困ります」

「しかしわてらだけじゃちときついというのも事実どす。おそらく次に来るのはミヤギはん、トットリはん、コージはん・・・」

「手を組む、と?」

「それが一番成功率が上がるでっしゃろ」

「まぁそう、ですけど・・・」

アラシヤマは洞穴の入り口から海を指差しながら言った。

「もしかしたら、もうそこまできとるかも知れまへんえ」

その瞬間。海の中からガンマ団の飛行船が勢い良く浮上した。
一瞬固まったが叫ぶ。

「よ、予知能力!」

「ちゃいますわっ!」

巨大なその横腹にペイントされた巨大なマーク。
あのタイプの飛行船を使うのは彼らしかいない。

「・・・わてらのお師匠はんらのおこしどす」

「嫌な予感的中か・・・」

予感と言うのは総じて、嫌なことばかりが当たるものである。
アラシヤマとはものすごく嫌がりながらも海岸に向かった。

海岸では銃声が鳴り響いていた。
ティラノのハヤシと特戦部隊の交戦の騒音である。
リキッドたちのときよりも用心し、2人はそこから十分に距離をとり、さらに息を潜めた。
はオペラグラスを覗き込みながら言った。

「なんか私らこんなのばっかりですね」

「しかたあらしまへんやろ。情報収集には直接観察が一番どす」

「そうですけど、こうワンパターンだと」

「ああっ!お師匠はんが食われそうどすっ!!いけハヤシくぅん!」

「隊長、露骨です」

そのとき、ハヤシの手から逃れたマーカーがまっすぐにこちらを見た。
オペラグラスごしにばっちり目が合い、2人はどきりして固まる。
まさかこの距離で聞こえたわけではあるまいが。

「どうしたマーカー!」

ロッドが銃を乱射しながら言う。

「いや、今唐突にあちらに向けて必殺技をぶっ放したくなった」

「わけわっかんねーこと言ってねぇで!技ぶっ放すならこのオカマザウルスにしろよ!」

「ロッド、弾切れだ」

「まじかよG!ああ、俺も!隊長手伝ってくださいよ!眼魔砲は!?」

「疲れるからやーだー」

「うっぜぇえええええええ!」

マーカーが視線をそらした瞬間、アラシヤマとはどっと冷や汗を吹き出した。
ばれたのかと思った。
は額の嫌な汗を拭った。

「そ、それにしてもなんだって元特戦闘部隊が?マジック様の命令ですか」

アラシヤマが軽く青ざめながらもそれに答える。

「いや・・・ハーレム様は今、シンタローはんともマジック様とも公私共に折り合いが悪いと聞いとります。それはないでっしゃろ」

「ではハーレム様の独断ですか」

「過激なあのお人のことや。大方どっかから聞きつけて、コタロー様奪ってガンマ団とやりあうとかなんとか考えとるんやあらしまへんか?」

「ああ、すごいやりそう・・・ってそれはまずい!コタロー様とられちゃうじゃないですか!」

「この場合、やりようはいくつかありますけど・・・」

@特戦部隊(元)より先にコタローを奪還し、飛行船を奪って逃走。
A特戦部隊(元)がコタローを奪還するのを待ちそれを横取りし、尚且つ飛行船を奪って逃走。
B飛行船のみを奪い一度ガンマ団にもどり現状報告。

「・・・全部荊の道じゃないですか。Aとか確実に黄泉の国行きチケット手に入りますよ」

「そうどすな・・・」

「その前に、まだ特戦部隊の目的が決まったわけじゃないですし、もしかしたら共同戦線を張れる可能性も・・・」

「本気どすか!」

「私だってできればお近づきにはなりたくないですけど!先生たちと戦うなんて真っ平ごめんですよ面倒な」

「特戦部隊との戦闘を面倒で済ましはりますか・・・。負けるからとかそういう理由はないんどすか?」

「勝てはしないでしょうがが負けるつもりもありません。無事ではいられないでしょうけどね」

あたりまえというようにきっぱり言い切ったにアラシヤマは少々面食らった。
ちょっと笑っては続ける。

「隊長だって負けるとは思ってないんでしょうが」

自分の中の自尊心をほのめかされ、アラシヤマも少しの笑いを返した。

「へぇ、そうどすな」

銃声がやんだ。どうやら決着がついたようだ。
果たして特戦部隊は無事ハヤシを追い払ったようである。
しっかり無傷なマーカーを見て、アラシヤマが舌打ちした。

「ちっ!使えんトカゲどすな」

「隊長、露骨すぎます」

ばれないうちにと2人はその場からこそこそと移動した。
飛行船のみ奪いガンマ団に戻るのは最後の手段だ。おめおめ逃げ帰るなどそれこそ自尊心が許さない。
この島では外部との連絡は一切できないようなので、飛行船の通信機器も役には立たないだろう。

「さて、コタロー様が今どこにいてはるかどすが・・・。ん!」

つぶやいたとき、近くの茂みががさっと動いた。
今の今である。特戦部隊かと2人はすばやく物陰に隠れた。
しかし茂みから出てきたのは巨大ミミズのシミズだ。忙しそうにどこかへ向かっている。
エグチとナカムラもなにやら話しながらそれに続く。

「楽しみだねー!」

「僕去年おじいちゃんに10円キズつけちゃったよー!」

「えー!うらやましー!」

何が羨ましいのかはわからないが、そんな会話をしながら2匹はシミズと同じ方へ消えた。
頭上を影が過ぎたかと思えば空飛ぶ鶏クボタだ。
よくよく周りを見れば、ほかにも様々なナマモノたちが、皆一様に楽し気に同じ方へと向かっているではないか。
ナマモノたちが去り、物陰から立ち上がったアラシヤマは首をかしげた。

「なんや今日は島全体が騒がしいでんな。何かあるんやろか」

が思い出したように言った。

「そういえば、向こうの開けた場所でナマモノたちが何か作っていたようでしたが」

「気になりますな。」

「はい」

名を呼ぶと、即座に意味を理解したは、様子を見にナマモノたちのあとを追う。
その去り際にアラシヤマに言った。

「私は手を組むのが一番安全だと思いますけど」

そしてはアラシヤマの返事を待たず茂みに飛び込んだ。
がその言葉の裏に含んだものを、アラシヤマはすかさず汲み取った。

ここしばらくまともな戦闘に参加していない特戦部隊。
冗談のような面々ではあるが、隊長ハーレムを筆頭に戦うのが生きがいというようなやつらばかりである。
下手に刺激すれば、たとえ弟子といえど容赦はしないだろう。
かなり難しいことではあろうが、無駄に傷を負うよりも、協力した方がずっと安全だ。
はそう言いたいのである。
そして、これはがアラシヤマに伝える気のなかったことであろうが、それさえもアラシヤマは見通した。

『体質が・・・コントロールできない・・・?』

昨日のリキッドやハヤシとの戦闘。
その最中のの不調を、アラシヤマは見逃していなかった。
は今、なにかわけのわからないものに囚われている。できれば戦闘は避けたいと思っているのだ。
はそれを決して口にはしないだろうが、瞳の奥には不安がゆらいでいた。

アラシヤマは密林に分け入った特戦部隊の声を聞き、その先に回り込んだ。
しかし彼らの警戒範囲には決して入らないよう注意する。
あんなに騒いでいて警戒しているのかは疑問だが、もし敵と見られでもしたら事だ。
その後に協力を申し込んだとしても100%断られるのは目に見えている。

「はぁ、お師匠はんと共同戦線どすか・・・。考えてみれば、修行時代を抜きにすれば、一緒に戦ったことなんてあらしまへんどしたなぁ」

しかしお互いを敵と置き、戦ったことならばある。
4年前、パプワ島でのあの死闘。
自分は自爆技まで繰り出したのに、マーカーには多少の痛手と頬の傷程度の効果しかなかった。あれは引き分けだったのだろうか。
しかしそれは数年前の話だ。今の自分は、あのときより数段強い。
もし今また自分とマーカーが戦うことになったなら、勝つのはどちらだろう。

「・・・」

アラシヤマは武者震いした。
自分も特戦部隊とそう変わらないのかも知れない。
戦ってみたい、どちらが上なのか知りたい。
が、おそらくそれは叶わないだろう。がそれを望んでいない。
それに相手はマーカーだけではない。ロッドやG、最悪ハーレムもいる。
自分の最強の持ち技・極炎舞。
それは自爆技だ。を巻き込みたくなどない。

「・・・そう言えば4年前極炎舞を使ったとき、何故わては助かったんでっしゃろ・・・?」

不思議なことに、そのときの記憶はずっとおぼろげだった。何度思い出そうとしてもそれができないのだ。
ミヤギたちにも聞いてみたが、彼らもはっきりとわからないと言っていた。
技を出したあと、次に覚えているのはシンタローたちが迎えにきたこと。
あとでドクター高松から聞いた話だが、力をすべて出し切るほどの火力であったはずなのに、アラシヤマたちの火傷は死に至るほどではなかったという。
覚えていない空白の時間。何かを忘れているような気がしてならない。

「うーん、どうも思い出せまへんなぁ」

「じゃぁ僕が思い出させてあげるにゃ〜」

「ぎゃあっ!コ、コモロくんっ!?」

アラシヤマの背後に、いつの間にかコモロがいた。
というより、アラシヤマの背後の木から生えていたのだ。
コモロはその木を離れ、アラシヤマの頭に取り付いた。

「あわっ、なんですの!やめなはれぇっ!」

「ではでは寄生も完了したところで、コモロいきます!にょ〜」

「う・・・ぎぇえええええええっっ」

アラシヤマの脳裏に怒涛のように蘇ってきた思い出は、マーカーと過ごした修行時代だった。
ただひたすらの厳しい修行。数々の苦しく辛い思い出。
それを無理矢理思い出させられ、アラシヤマは一気に鬱状態に陥った。


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