家の建築は順調に進んでいた。
家を建てた経験があるのはこの中ではリキッドだけなので、必然的にリキッドが一番こき使われる。
しかもハーレムが次々と無理難題をふっかけるので、リキッドの指示でアラシヤマとにもどんどんと仕事が回ってくる。
もはや働いているのは3人だけだった。特戦部隊は完全に見学モードだ。

「リキッド、ここもっと広くしろ」

「ええ!ここっすか!もっと早く言ってくださいよ!」

「リッちゃーん?」

「わ、わわわわかりましたって!アラシヤマ、木材一本追加!、手伝ってやってくれ!」

一緒に作業せよとの指示で、2人がぎこちなくお互いを見る。
しかしすぐに視線をそらしたのはアラシヤマで。

「わ、私行ってくる。一人で大丈夫だから」

アラシヤマに聞こえるように、リキッドに向かって言う。
は木陰に立ち入り、締まったようにひくつく喉を抑える。
それは遠い昔、一度だけ経験した悪夢の兆候だった。
目頭が熱い。泣いてはいけない。

「あーらら。かわいそーに」

「ロ、ロッドさん」

喉の違和感のせいで言葉が詰まってしまう。
は目の前に現れたロッドを見上げた。

「好きなんだろ、あの京美人ちゃんが。冷静な軍人ぶってるけどやっぱ女の子だねぇ」

「な!ち、ちがっ!」

「わかりやすっ!あっちのオジサンたちみーんな鈍いけど、百選練磨の俺にはお見通しなんだよね」

ロッドがの背にした木に両手をつく。
の耳の近くでロッドはささやいた。

「俺ってさ、男も女も大好きなんだけど。ちゃんのそのきれいな少年みたいなお顔、めっちゃ好みなんだわ」

「は・・・?」

「見たときはびびったよぉ。まじで美少年にしかみえねぇんだもん。それがさ、俺的にすっげぇそそるわけ」

ロッドの手が段々と狭まってくる。
話しながら、ロッドは逃げられないようにとの体を木に押し付けた。
は抵抗するが、ロッドはびくともしない。
並みの男程度の力はあっても並は並。特戦部隊には敵わない。

「俺ヤるのもうまいぜ?絶対俺の方がいいって。な?」

「・・・舌噛みますよ」

言ってぎらりと睨みつければ、ロッドは苦笑して身を離した。

「おいおい、そんなに怯えないでほしいね」

「・・・」

すかさずは皆がいる方に早足で歩き出す。
ロッドは一定の距離を置きついてくる。

「なんであっちがいいわけ?」

「・・・」

「向こうは全然気づいてないじゃん?望み薄なんじゃないの?」

「・・・」

「さっきの聞いてたけどさ、友達って。完全にアラシヤマのそういう対象からはずれてんだよ」

「・・・ふくっ」

「服?」

の喉からおかしな声が漏れた。
その場で立ち止まってしまったを、ロッドがいぶかしげに見る。
顔をのぞきこんでいると、マーカーとGが異変に気づいたのか近寄ってきた。

「どうした。ロッド、何をやったんだ」

「ええ?別に何にも・・・」

そのとき、の目から地面へと落ちたものがあった。
それは軽いがために形を留め、足元に転がった。
ロッドがそれを拾い上げる。

「なんだぁ?氷?」

「どうしたんすか?」

マーカーたちが集まっているのを見て、リキッドも様子を見にきた。
そしてアラシヤマも。

「あれ?つか、なんか寒くねーっすか?おっかしーな・・・」

リキッドが腕を擦る。
確かに、先ほどから寒いと感じる。
その冷気の出所は。

「?」

アラシヤマがの名を呼んだ瞬間、異変に気づいたGが叫んだ。

「皆から離れろっ!マーカー!」

「ぬっ!」

マーカーがとの間に炎の壁を作るのと同時に、の体から凄まじい勢いで冷気が立ち上った。
周囲が一瞬にして凍りつく。

「!!!」

「・・・うう・・うあ、うああああああああああああああああああああああああっっ!!」

の目からは涙があふれ、しかしそれは地面に到達する前に、すべて氷の粒となって落ちた。

『すきなものはみーんなこおらせるんや。そうすれば、もうどっかにいってまうこと、あらしまへんやろぉ』

その声は自分だ。幼いころの自分。
ただ純粋に、善も悪もわからなかった。
それは間違っていた。それは愛ではなかった。


でも、気づいたときには遅かった。


氷づけのトンボ。
幼子の背中。
ひそやかな会話。
玩具屋の鮮やかな色彩。
冬。

それはぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ。





パプワハウスで、ロタローは肩を震わせた。

「パプワくん・・・なんか寒い・・・」

じょじょに低下する島の気温。
パプワはチャッピーとロタローが体をすり寄せてくるのを受けとめ、冷気の出所、風の吹いてくる方へと頭をめぐらせた。

「・・・はじけた」

寒風がいっそう強く吹いた。



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