ロタローは昼になってやっと海から生還したリキッドを台所に追い立てた。 「早く昼ご飯作ってよ家政夫!今日はウニ丼だからね!僕もうお腹空いて死にそうだよ!」 「お前らが俺を海の底に埋めたから遅くなったんだろ・・・」 「何か言った?」 「いえ・・・なんでも・・・」 ロタローがにらむとリキッドは急ぎ手を動かした。 子供を見捨てた汚い大人というレッテルを貼られたリキッド。口答えなどさせてもらえない。 ロタローは怒っていることをアピールするためぷんと横を向いた。 「だからほんと悪かったって!冗談に決まってるだろぉ?」 情けない声を出して弁解するリキッドを、ロタローはぺしんと叩く。 「手を止めるんじゃないよ家政婦」 「くっ・・・はい坊ちゃまっ」 また家事にもどるリキッドに、ロタローは少し迷ってからぽつりと言った。 「・・・昨日のことさ」 リキッドの肩が強張ったのを、ロタローは見逃さなかった。 リキッドは昨日帰ってきた後、何があったか話そうとしなかった。何を聞いても曖昧にして誤魔化すだけ。 はどうなったの?なんで僕を連れていこうとしたの? あまりに口が堅いので拷問にかけようとしたが、それでもしゃべらないぞという意思を感じやめた。 でも気になる。 何が一番気になるかと言えばのことだ。 あの美少年めいた微笑み、どこか懐かしいあの女性が。 自分の素性を知っているのではという思いもあったが、何より知りたいと思ったのは自身のことだった。 どうしてこんなに気になるのかはわからない。 そして、何故こんなに"近い"と感じるのかも。 懐かしい、近い、似ている。 ああ、そのを? 「やっつけたなんてこと、ないよね?」 これだけは聞いておきたい。答えないのなら、拷問でもなんでも。 しかしリキッドは、昨日とは違いあっさりと言った。 「ああ」 その一言を聞いただけで、ほっと息をついた自分がいる。 リキッドが振り向きなんとも言えない顔をした。何か言っている。 「アラシヤマと同じため息つくのな・・・」 その声は、耳から耳へ抜けていき、ロタローはぼんやりと、思ったことを口にした。 リキッドに聞かせようと思ったことではなかった。 ただなんとなく、口にしただけ。 「僕、は悪い人じゃないと思うんだ。僕を騙したのも、何か訳があったんだ」 「でもあいつらは・・・」 「だって。だってね、は・・・花の王冠、また作ってくれるって」 ロタローの伏せられた目、それを縁取る長い睫毛から、しずくがひとつ落ちた。 「作ってくれるって・・・僕のために」 「ロタロー・・・」 「僕のために・・・」 リキッドは何も言わなかった。 いや、言えなかったのだ。なんと言ったらいいのかわからない。 すると、それまで何も言わず珍しく部屋の隅でチャッピーとおとなしくしていたパプワが、ロタローの頭にそっと手を置いた。 「パプワくん・・・」 「似てるな」 「え・・・?」 「あいつはロタローと似てる」 「あいつって、?」 「がんばって、がまんしている。ロタローもそうだった」 「僕も・・・って?」 ロタローは首を傾げたが、リキッドにはわかった。 パプワは4年前のロタロー、すなわちコタローのことを言っている。 「おいパプワ、それは・・・」 「だからあいつもそのうちはじけるぞ」 「は?はじける?」 「あのままじゃ、あいつもいずれ、ロタローのように」 パプワは静かに目を閉じた。 しんと部屋が静まり返る。 「お、おいパプワ」 リキッドが心配になって声をかけるが、パプワはすぐに目を開けた。 「リキッド」 「おぅ、なんだ?」 「ぼくはホタテ丼が食べたい」 「あー!僕も!ウニもいいけどホタテもいいよね!」 「なぁっ!いきなりなんだよっ!ロタローもテンションいつの間にか戻ってやがるし!」 面を返したように元気を取り戻したロタローに、リキッドは喜んでよいやら嘆いてよいやらわからなかった。 「ねぇ家政夫っ!ホタテとってきてよ、おーっきいのね!」 「んなこと言われたって・・・」 「そうだ!さっきのでかい貝のやつ捕まえてきてよ!」 「でぇっ!あれ食うのかよ!仮にも命助けてもらったのに・・・」 「もとはと言えばあいつが呪いの真珠なんかくっつけてるからだろ!決めた、僕あれが食べたい!あれ以外は認めないからね!」 「早く捕ってこいリキッド」 「わう」 「あんな広い海で見つけられるわけねぇだろぉっ!第一会ってなんて言やいいんだよ、食われてくださいってか!?」 しかし家政夫であるからには従うのが定め。 それも身についた下っ端根性か。 リキッドは貝の親父を探しに再び海へと潜るのだった。 夜。アラシヤマとは洞穴にて大漁を祝っていた。 「トカゲは逃したけど、思わぬ大収穫でしたね」 「いやー、この島の地形把握するまで食料見つけるのは大変そうどすからな。助かりましたわぁ。これで数日は持つでっしゃろ」 食卓に並べられたのはホタテ丼。 見事な大きさ、色、艶だ。 所詮この世は弱肉強食。これも食物連鎖だ。 「「いただきます」」 アラシヤマとは有難くホタテ丼をかっこんだ。 それがここにある。 ということは、例え海が25メートルプール大だったとしても、リキッドに貝の親父を見つけることは不可能。 しかしそれを知る術はリキッドにはない。 だが人には第六感というものが存在するという。 海でドザエモンとなっていたリキッドは、このとき激しい悪寒に襲われた。 しかしその悪寒に襲われたのはリキッドだけではなかった。 まったく同じとき、ホタテ丼を満喫中のアラシヤマとも、それを感じたのである。 目的地に向かい進む飛行船。 あとに残した某国の港町は、酒場を建物ごとひとつ失っていた。 しかし某国は運が良かったと泣いて喜ぶべきである。 元ガンマ団特戦部隊が通ったあと、無事国が形を変えずにいたのは、一重にハーレムの気紛れだったのだから。 そのハーレムは、飛行船の一室でマーカーに絡んでいた。 「マァーカァー!あとどんくらいだぁー?」 「まだだいぶかかります。5分置きに聞くのはやめてください隊長」 「おい、G。まぁたそんなヒラヒラの服ばっか作って、どうしよってんだ?」 「・・・に・・・」 「おい、Gったらよぅ」 「うるさいぞロッド」 「なんだよマーカー!俺はGに話してんだよっ!」 「リッちゃーん!今行くからなぁ!金貯めて待ってろよぉー!」 目的地に向かい進む飛行船。 それに乗るのは元特戦部隊。 色んな意味で地上最悪の軍団が目指す目的地。 3人は同時にぶるりと体を震わせた。 「な、なんだ今のは・・・」 「隊長、今なんかすごく・・・」 「へぇ、わても・・・」 (((いやーな予感がする・・・))) 3人の命運やいかに。 >>dream manu